種分化と進化の実体3

(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)

 

 

[ユッキーさん]去年、CSで700万年前に存在していたと思われる
        化石が
見つかったのを見ました。
        この発見で従来の人類発祥地、年代が変わったと
        言ってました。
        この化石を元に復元して毛むくじゃらの姿を再現
        していました。

        こうゆうのを見ると私たちは進化して今があるのだなぁ
        とも
思えますがやっぱり別

        それはヒューマイと名づけてましたが人間は人間、
        ヒューマイは
ヒューマイであり別種でありヒューマイ
        から私たちになったとは考えてません。

 

面倒臭いので誰も突っ込んていませんが,
「700万年前の地層から見つかった最古のヒト科化石」は
「ヒューマイ」ではなく,『トゥーマイ』です
ユッキーさんが見た番組は
おそらく,ナショナルジオグラフィックチャンネル
『最古の猿人:トゥーマイ』か何かだろうと推測しますが,
番組を見た後で少しでも調べた経験があれば,
こんな間違いはしないでしょ?

ヤギとヒツジのキメラ実験を
種形成の例として持ち出してみたりしていることから考えても,
ユッキーさんの知識の大半は,テレビや創造論本からもので,
進化や生物学についてまともに勉強したことはありませんね

 

ユッキーさんの態度についてはまだまだ言いたいことはありますが,
きりがないので本題に入ります

前回『進化の単位となる集団』は
『生物学的種』でも『形態的種』でもない,
と書きました
現代の進化論では,進化の単位は「種」ではなく,
「実質的遺伝子交流集団」だというのが常識だからです
>「種」は進化しない

>個体の変化の結果として、ある集団と別の集団の個体の形態が、類似し
>たり異なったりしてくる。さらに、ある集団の個体と別の集団の個体で
>は、子どもを残せる可能性が残っているかもしれないし、すでに子どもを
>残せないほど違っているかもしれない。いずれにしても、実際に進化した
>り、進化に関わっているのは、遺伝子、個体、繁殖集団あるいは実質的遺
>伝子交流集団などであり、その結果として、生物学的種概念による「種」
>(潜在的に繁殖可能な集団)や形態の類似性で分類した「種」が
>生じる。
つまり、種自体が変化し、進化しているわけではないのだ。
(河田(1990)『はじめての進化論』講談社)

 

「実質的遺伝子交流集団」のことは「繁殖集団」「個体群」「デーム」等,
様々な呼び方をしますが,
要するに,「実際に相互交配し,遺伝子を交流している個体の集まり」
ということです

 

進化とは「集団内の遺伝子頻度の変化」です
突然変異のうち,あるものは遺伝的浮動によって集団内に拡散し,
あるものは自然淘汰によって消失し,
あるものは自然淘汰によって定着します
この「進化」という現象の単位となる「集団」は,
実質的に遺伝子を交流している集団以外はありえません

 

例えば,タイワンザルとニホンザルが「潜在的に」交配可能だとしても,
地理的な隔離が完全であれば,
タイワンザル集団に生じた変異がニホンザル集団に拡がることはないからです
同様に,北海道のエゾヒグマUrsus arctos yesoensis集団に生じた変異が,
中国のウマグマU.a.pruinosus,ヨーロッパヒグマU.a.arctos
アメリカのハイイログマU.a.horribilis集団に拡がることはないので,
「ヒグマUrsus arctosという種」(潜在的に交配可能な集団)の進化
という考え自体がナンセンスだということが分かるでしょう
(意味があるとすれば,次の氷河期で北海道が
 ユーラシア大陸北米大陸と地続きになった場合です)

 

また,繁殖集団をもっと細かく見ると,
ニホンザルの「群れ」は一つの「繁殖集団」であり,
進化は群れの遺伝子頻度の変化という形でも観察できます
もちろん,ニホンザルの群れは
近隣の群れから独立しているわけではありません
群れを離れる若いオスを通じて,群れ同士は遺伝的に交流しています

「霊長類の集団遺伝学:ニホンザル研究の現状と展望」 川本 芳 (集団遺伝分野・進化遺伝分科)

 

このように,高い頻度で遺伝子を交流している小集団同士が,
部分的な遺伝的交流によって大集団を形成している場合,
小集団をサブ個体群,いくつものサブ個体群をまとめた大集団をメタ個体群と呼びます
例えば,遡河性のサケ科魚類の多くは生まれた川を遡上するため,
各支流ごとでサブ個体群(局所個体群)を形成し,
水系全体でメタ個体群を形成しています (北海道大学大学院 環境科学院 生物科学専攻 小泉研究室HPより)


個体群の構造と遺伝子頻度の変化を記載し,理論化しているのが集団遺伝学です
ユッキーさんが「見せてくれ」と言っている
「現在,起こっている進化」の実体を研究する学問です
コナガ集団が殺虫剤の耐性を獲得する過程も進化ですし,
気候の変動によるエサの変化に合わせて,
ダーウィンフィンチ集団の嘴の形態が変わっていくのも進化です
 

各個体群内の遺伝子頻度が変化し,
その結果として生殖隔離が生じる(種分化)のも進化です,
ユッキーさんが,本当に進化を納得したいのなら「集団遺伝学」を
勉強する必要があるんですよ