自然選択と遺伝的浮動1

(以下は,進化論と創造論についての第1掲示板での[神って誰さん]への説明を加筆,修正したものなんですが,[神って誰さん]は結局分からず終いでした)

 

[神って誰さん]《突然変異には予め定められた方向性がある》。
        これが結論。

 

その「予め定められた突然変異の方向性」
というのはどのようにして検出されるのですか?
突然変異自体に「予め定められた方向性」があるとするなら,
実際に固定する突然変異のほとんどが中立であるという
観察事実はどのように説明するのですか?


突然変異に方向性がないことを証明した実験としては
レーダバーグ(J. Lederberg)のレプリカ・プレート実験が有名ですね

(5) 突然変異はポーカーゲーム(週刊朝日百科_動物たちの地球, シリーズ : 分子生物学から見た進化)Hiroshi HORI ASAHI ENCYCLOPEDIA WEEKLY 12/1991;

 

この実験で示されたように,ストレプトマイシン耐性という突然変異は
ストレプトマイシンに暴露される前にすでに生じていました
ストレプトマイシンがない環境で中立な突然変異としてです

神って誰さんは,
「『正体不明の想像を絶する知性体』が
  この細菌が将来ストレプトマイシンに暴露されることを予測して,
  あらかじめストレプトマイシン耐性という突然変異を起こしておいた」
と考えるのでしょうか?

 

だとしたら,せっかくストレプトマイシン耐性の突然変異を起こしたのに,
ストレプトマイシンに暴露されることのなかったプレートに関しては,
『正体不明の想像を絶する知性体』は賭けに負けたことになりますよね

 

突然変異は「あらゆる方向へ同じように起こりうる」わけではありません
例えば,塩基置換の場合,
転移型(A⇔G,T⇔C)は転換型(A⇔T,A⇔C,T⇔G,C⇔G)よりも起こり易く,
特にC→Tの頻度が高いという計算結果が出ています
(3.2.1 塩基置換のパターン.「分子進化遺伝学(根井 正利 (著).培風館 (1990/02).p.25-26.)
しかし,「適応的な特定の方向性をもたずに起こる」,
という意味ではランダムなんですよ

これに対して、ダーウィニズムは変異と方向性の原因となるそれぞれ別の力をもつ二段階からなるプロセスである。ダーウィン主義者たちは第一段階である遺伝的変異を"ランダム"なものと考える。だが、このランダムという語は、あらゆる方向へ同じように起こりうるという数学的な意味で使われてはいないから、実はあまり適切な語ではない。それは単に変異が適応的な特定の方向性をもたずに起こるという意味で使われるにすぎない。たとえば、気温が低下したとき、ある個体が他のものより毛深ければそれだけ生存を続けやすいとしても、さらにいっそう毛深く なる遺伝的変異が高い頻度で起こりはじめるわけではない。次に、第二段階である淘汰は無方向性(unoriented) の変異に対して作用し、有利な変異体にそれだけ大きい繁殖上の成功を与えることによって、一つの個体群を変えていく。(p.112-113, パンダの親指〈上〉―進化論再考. スティーヴン・ジェイ グールド (著). 早川書房 (1996/08))

 

[神って誰さん]中立説と自然淘汰論が並立する、両立し得る、
        と言う考え方は間違っている。
        単に譲歩と妥協の産物に過ぎない。
        中立説と自然淘汰論を合体させた総合説自体が
        とんでもない欺瞞の産物だ。
        進化させるのは、中立的な突然変異か、
        自然に選択された突然変異かどちらなのか?
        ある時は前者、ある時は後者、というのが
        総合説だが、よく考えてごらん、。
        そのある時って何なの? それは偶然が支配しているのか?

 

「分子進化遺伝学のp.334-336に書いてあるように,
中立突然変異の集団内での置換率は,
配偶子あたり,世代あたりの中立突然変異率に等しくなり,
有利な突然変異の置換率は,
集団の有効な大きさ,選択に対する有利さ,突然変異率の積で決まり,
両者は同じ式から導かれるということですよ

 

[神って誰さん]はあ?
        
二つも全く関係のない変数の入っている式が同じだって?

 

一つの遺伝子座について突然変異率をv,集団の個体数をNとすると,
集団中に出現する新しい突然変異遺伝子の数は(2N)v個,
出現した1個の突然変異遺伝子が集団中に固定する確率をuとすると,
置換率kはk=2Nvu ─(1)で与えられますね

今,野生型遺伝子をA.突然変異型をA’として,
遺伝子型AA,AA',A'A'の適応度がそれぞれ1,1+s,1+2sだとすると,
(その突然変異遺伝子がヘテロ接合でs,ホモ接合で2sだけ,野生型対立遺伝子に対して自然選択で有利だとすると),
突然変異遺伝子の固定確率uは
u =[1-exp{-(2Nes)/N}]/[1-exp(-4Nes)] ─(2)で与えられます

もし,突然変異が中立であるなら
淘汰係数s(野生型対立遺伝子に対する有利さ)は0だと考えられるので,
uは(2)式のs→0の極限値となり,u =1/2N ─(3)
これは「新しい遺伝子が個体数Nの集団に出現した時の初期遺伝子頻度」p=1/2N とも等しくなりますね

ここで(3)を(1)に代入すると,
k=2Nv・(1/2N)=v ─(4)
となります

この式は中立な突然変異の遺伝子置換率kは,
1遺伝子座あたりの突然変異率vと等しくなるということを表しています

 

一方,突然変異が中立ではなく.自然選択に対して明らかに有利(Nes≫1)な場合,
sが1よりずっと小さい正の数だとすると,uはほぼ2sNe/Nとなります
ここで単純にN=Neとすると、u=2s ─(5) 

つまり,1%有利(s=0.01)なら究極的な固定確率は2%,
2%有利(s=0.02)なら究極的な固定確率は4%というように,
究極的な固定確率(u)は淘汰係数(s)の2倍になるということですね
これは有利な突然変異であっても1-2sの確率で集団中から消失することを
表してもいます
(1%有利でも98%は消失,2%有利でも96%は消失するわけですから)
ここでN=Neとして,(5)を(1)に代入すると,
k=2Nev・2s=4Nesv ─(6)
(k:置換率,Ne:集団の有効な大きさ,s:淘汰係数,v:突然変異率)

 

以上が,
「中立突然変異の集団内での置換率は,配偶子あたり,世代あたりの中立突然変異率に等しく」なっていること,
「有利な突然変異の置換率は,集団の有効な大きさ,選択に対する有利さ.突然変異率の積で決ま」ること,
「両者は同じ式から導かれる」ことの説明です

さて,神って誰さんはどの部分の説明が分からないのでしょうか?

 

[神って誰さん]Neとsの単位と具体的な算出方法は?


Neは,集団の有効な大きさ(有効集団サイズ)で単位は個体数ですね

先ほどは,個体数が十分に大きい場合を考えて,簡略化のため近似して,
N=Neで説明しましたが,実際にはNeはNよりも小さくなります

 

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集団遺伝学 (遺伝的浮動2) - どんな鳥も

 

s(淘汰係数)の定義は,すでに説明済みですよ
もう一度,読み直して下さいね

>今,野生型遺伝子をA.突然変異型をA’として,,
>遺伝子型AA,AA',A'A'の適応度がそれぞれ1,1+s,1+2sだとすると,
>(その突然変異遺伝子がヘテロ接合でs、ホモ接合で2sだけ,
>野生型対立遺伝子に対して自然選択で有利だとすると)

一応,補足しておくと,,
上記の「適応度」というのは「相対適応度」のことですから
「集団の平均産子数」を1とした時の相対値ですよ
>一方、遺伝的適応度は「ある形質をもたらす対立遺伝子
>(進化ゲーム理論のばあいは戦略)が集団中に広まる速度」
>と言うことができる。たとえば二組のペアがおり、
>一方が遺伝子Xの影響で生涯に6匹の子をもうけたとする。
>もう一方は対立遺伝子Yの影響によって生涯に4匹の子を
>もうけたとする。この群れの平均産子数は (4 + 6) / 2 = 5 であり、
>Xの適応度は 6 / 5 = 1.2となる。Yの適応度は 4 / 5 = 0.8 となる。
>この値を相対適応度と呼ぶ。
>集団遺伝学、数理,生態学などで通常用いられるのは遺伝的適応度であり、
>相対適応度である。遺伝的適応度は個体適応度と一致しない場合がある。
>集団全体の相対適応度は常に1であり、相対適応度が>1であればその遺伝子は、
>広まりも減りもしないが、1より小さければ集団内で次第に数を減らし、
>1より大きければ次第に数を増す。値が大きければ大きいほど急速に広まる。
>この例ではXが増してゆく。

適応度 - Wikipedia

 

 

[神って誰さん]雌雄同数であればN=Neだな。
        その場合置換率は単純に集団の個体数に比例することになるね?

 

雌雄同数でもN=Neではありません
NfとNmは繁殖する雄と雌なので,
「繁殖する雄と雌が同数」である場合はNf=Nm=Ne/2にはなりますが,
世代ごとに個体数が変動するのでNe=Nにはなりません
ミケさんの指摘どおり,先に引用した式には誤植があり,正しくは

i世代目の人口をNiとすると,
  1/Ne=1/t(1/N1+1/N2+……1/Nt

「分子進化遺伝学(根井 正利 (著).培風館 (1990/02)
※1世代目からt世代目までの,各世代のNを全て逆数にして(1/N1、1/N2……1/Nt),
 それを足してtで割ったものが1/Neの逆数になります

ピンゲラップ島のレンキエキ台風のような極端な人口減少を経験した集団
の有効集団サイズ(Ne)は小さくなります 

 

仮にNe=Nだったとしても,
『置換率が集団の個体数に比例する』かどうかは
突然変異の有利さによって変わりますよ

有利な突然変異の置換率はNeにも比例するのですが.
中立な突然変異の置換率はNeに関係なく
1遺伝子座あたりの突然変異率vと等しくなるという解説を既にしています

 

[神って誰さん]Neという単なるNumberの変数が
        置換率という比率に比例する理由は?
        ついでに置換率の定義もしてもらおうか。
          

そもそも『置換率』は『比率』ではありません
神って誰さんは「突然変異率」のことも
「確率」や「比率」だと勘違いしていましたよね
日本語の『率』が『変化の率rate(単位時間あたりの変化数量=速度)』
を表すことがあるというのが理解できないからでしょう

「置換率」の単位は「突然変異率」と同じ「単位時間あたりのDNAの変化数量」です
単位が同じだからこそ,「〜置換率は〜突然変異率と等しくなる」
という説明が成立するんですよ

 

とにかく,神って誰さんは,定義を理解する能力が低くて数学の知識もないので,
数式を出しても理解できないことが分かったので,
具体的にイメージできるように,実際に数値を入れて計算してみましょう

まずは,NとNeの関係について
1世代目が1200個体,2世代目が800個体,3世代目が1200個体,4世代目が800個体,……というように,
交互に増減を繰り返す集団を仮定します
1/Ne=1/t(1/N1+1/N2+……1/Nt)に数値を入れて,
12世代目までのNeを計算してみました(小数点以下は四捨五入)

t  Nt Ne
1    1200   1200
2 800   960
3 1200   1029
4 800   960
5 1200   1000
6 800   960
7 1200   988
8 800   960
9 1200   982
10 800   960
11 1200   978
12 800   960


グラフにすると 

12世代目の時点でN1,N2,……N12の算術平均は1000ですが,Neは960になります
Ntの平均をNとするなら,Ne/N=0.96になりますね

 

しかし.急激な集団減少を経験した場合はどうでしょうか?
個体数1200から100まで減少した後,700→1200と回復し,
その後,1000 →1200 →1000 → 1200 →1000 → 1200 → 1000 →1200,
と変動した集団を想定します
この場合もN1,N2,……N12の算術平均は先ほどの例と同じ1000になるのですが,
Neはどうなるでしょうか?

t  Nt Ne
1 1200 1200
2 100 185
3 700 245
4 1200 305
5 1000 355
6 1200 402
7 1000 439
8 1200 477
9 1200 511
10 1000 538
11 1200 566
12 1000 587

 


結果は以上のように,急激な集団減少によってNeも減少し,
その後,個体数が回復しても10世代ぐらいではNeはなかなか回復しません
これは「ボトルネック効果を表して」います
12世代目の時点でNtの平均は1000でNeは587ですから,
Ne/N=0.587ですね 集団中の個体数の変動が
Neにどの程度の影響を与えるか少しはイメージできたでしょうか?