人類の進化 試練と淘汰の道のり―未来へつなぐ500万年の歴史

f:id:shinok30:20210403205541p:plain

人類の進化 試練と淘汰の道のり―未来へつなぐ500万年の歴史.埴原 和郎 (著)

  

 20年前の本なので古くなっている内容も多いのですが, この本によると,現在「早期ネアンデルタール人」とされている化石(英国のスウォンズクーム人やドイツのシュタインハイム人)は,かつては「プレサピエンス」と呼ばれていました
ネアンデルタール人との関係が否定されたほど,現生人類的な形質を持っていたからです

 詳細な比較研究が行われた結果,「典型的ネアンデルタール人」の祖先であるとされるようになったのですが,単体でみた時には現生人類の祖先に見えてしまうほどだったということです
 
>古いほど現代人に近い理由

> そこで.まずネアンデルタール人の祖先探しからはじめよう。
> 現在のところ、ネアンデルタール人の直接祖先は、前の章で紹介したハイデルベルゲンシス原人ではないかという可能性を否定する材料はない。したがって、断定することは危険かもしれないが、ネアンデルタール人の特徴が現れ始めたのはハイデルベルゲンシス原人以後,つまり早く見積もればほぼ五〇万年前、遅く見積もれば約三〇万年前よりもあとの時代と考えていいだろう。
> そうすると、ヨーロッパのハイデルベルゲンシス原人はすべて祖先としての可能性を持っていたことになるのだが、一九九七年になって新しい見解が発表された。それは、マドリードにある国立自然博物館のJ・M・ベルミュデス・デ・カストロマドリード・コンプルテンセ大学のJ・L・アルスアガらの報告である。
> 一九九四年から九六年にかけて、スペインのアタプエルカ山地にあるグラン・ドリナという中期更新世の洞窟遺跡で、八〇個にのぼる人骨化石が発見された。それらの頭骨や歯にはネアンデルタール人と、その後のホモ・サピエンス(サピエンス人)との特徴が混在している。そこで、著者たちはこの一群の化石に「ホモ・アンテセッサー(ホモの先行者)」という学名をつけ、ネアンデルタール人とサピエンス人の共通祖先と考えた。なおミシガン大学のJ・M・パレらの最近の報告によると、アタプエルカ人の年代は三二万五〇〇〇年から二〇万五〇〇〇年前と測定されている。
> これらのことを念頭において、以下では簡単にネアンデルタール人の祖先と思われる化石を追って見よう。
> 年代からみて、最初期のネアンデルタール人と考えられる化石は、英国のスウォンズクーム人やドイツのシュタインハイム人などである。これらは三〇万年から二五万年ほど前に生きていた人たちで、以前はプレサピエンスといわれ、ネアンデルタール人とは無関係とされていた。
> その後、ネアンデルタール人について詳細な比較研究が行われた結果、これらの化石もネアンデルタール人の特徴を持っていることが明らかになった。とはいえ、それはまだ一部の特徴に限られ、「典型的ネアンデルタール人」といわれるグループとは異なっている。そこで、これらの化石は「原ネアンデルタール人(プロト・ネアンデルタール)」と呼ばれることもある。
> これよりもやや新しいのはドイツのライリンゲン、フランスのビアージュ、すでに紹介したスペインのグラン・ドリナなどで発見された化石で、二五万年ないし、二〇万年前のものである。頭骨の形をみると、これも原ネアンデルタール人の仲間と考えられる。
> 復元された三個の頭骨の脳容量は最小一一二五cc,最大一三九〇cc,推定体重九三・一〜九五・四キログラムという。また、頭骨、骨盤,大腿骨などの形は、基本的にはネアンデルタール人の祖先とされているが、サピエンス人の祖型と思われる点もあるとのことである。したがって、これがネアンデルタール人とサピエンス人の共通祖先らしいという点で、アルスアガらの見解は変わっていないことになる。
> 要するに原ネアンデルタール人といわれる化石は、ネアンデルタール人の特徴とともに,むしろそれよりも進歩した形質を併せもっている。繰り返すようだが、そのために、これらの化石はネアンデルタール人との関係を否定されたのである。なぜなら、「典型的ネアンデルタール人」よりも古い時代に進歩的、つまりサピエンス人的な形質を持っていた集団が、その進歩性を振り落としてネアンデルタール人になったとは考えられない、という理屈が合ったからである。
> ところが現在の考え方は違う。それは、ネアンデルタール人が寒いヨーロッパに閉じ込められたために寒冷気候に適応し、徐々に特殊化を強めていった……ということが明らかになってきたからである。いいかえれば、ネアンデルタール人は一般的形質を持つ祖先種から徐々に離れ、寒いヨーロッパで孤立して特殊化の道を突き進んだのである。
>つまり、原ネアンデルタール人は、後の典型的なネアンデルタール人のスタートラインに立っていた人たちとも言える。
> ちなみに、ここでいう一般的ないし進歩的形質というのは、サピエンス人にも共通する形質を指している。したがってわれわれ現代人は、原ネアンデルタール人が持っていた一般的形質からの派生形質を維持しているということになる。それは、丸みを帯びた脳頭骨、上顎骨の犬歯窩、比較的弱い顔の前突、やや小さい尾骨などで、典型的なネアンテルタール人では、これらの形質が大きく変化している。(p.173-176)
 
 つまり,ネアンデルタール人は現生人類的な祖先種から進化してきたということなので,かつての「旧人」「新人」という語のイメージと異なり,むしろ,現生人類の方がネアンデルタール人よりも原始的な形質を保持した種だったということになります

 これは「ヒトは食べられて進化した」の解説で紹介した「ヒト上科よりもオナガザル上科の方が進化的」というのと同様に,「ヒトに近い方が進化的という先入観が逆だった」という例ですね