新版 ハワイアン・ガーデン: 楽園ハワイの植物図鑑.A Pocket Guide to Hawaii's Trees and Shrubs (Pocket Guide Series)
A Pocket Guide to Hawaii's Trees and Shrubs (Pocket Guide Series)
どちらもハワイの植物図鑑です
ハワイ旅行に行った際,現地の植物を調べるのに重宝しました
2019年10月4日,ビショップ・ミュージアム併設自然植物園では,環境ごとの特徴的な植物を紹介していました
1.乾燥林の自然植物( Na hele ナヘレ)
‘’Dryland forest”(乾燥林)というのがどの程度の雨量かというと,年間50インチ(1270mm)以下らしいですね
大阪府の年間平均降水量が約1279mmなので,大阪と同程度の乾燥ということです
2.海岸の自然植物( Kahokai カホカイ)
3.ポリネシア人が伝えた植物(Mai na wa’a マイナヴァア)
※外来種ですが,伝統植物として,近代の侵入種とは区別されています
1.乾燥林の自然植物( Na hele ナヘレ)
ハラペペChrysodracon hawaiiensis(クサスギカズラ科)
ハワイの固有種で絶滅危惧種です
クサスギカズラ科は野菜のアスパラガスや観葉植物のドラセナの仲間で,ハラペペもドラセナに似た姿をしています
ウーレイOsteomeles anthyllidifolia(バラ科)
テンノウメ,イソザンショウ,テンノウバイ
ハワイサンザシという和名を書いている本もありました
日本でも庭木、盆栽などに利用されている木です
サクラに似た白い花が咲き,白い小さな実が成ります
実は甘いそうですが食用にはなりません
種子は乳児用の薬として使われました
アラヘエPsydrax odorata(アカネ科)
葉から黒い染料が採れます
ウーレイもアラヘエも材が硬く,土を掘る道具や魚を捕る銛に使われました
クプクプNephrolepis cordifolia(ツルキジノオ科)
日本やニュージーランドでも見られるタマシダです
南米原産のセイヨウタマシダNephrolepis exaltataもクプクプと呼ばれますが,別種です
アアリイdodonaea viscosa(ムクロジ科)
和名はハウチワノキ
インド~東南アジア~オーストラリア~太平洋諸島に広く分布する木で,日本でも『ドドナエア』という名前で観葉植物や庭木として流通しています
ホーアヴァPittosporum hosmeri(トベラ科)
ハワイ固有種
実にはトウガラシのような刺激臭があり,アララ(ハワイガラス)という絶滅危惧種の鳥の餌になるそうです
ウキウキDianella sandwicensis(ススキノキ科)
ハワイアンリリーとも呼ばれますが,ユリ科ではなくススキノキ科キキョウラン属(ハワイ固有種)
ススキノキ科という名前に耳馴染みがありませんが,アロエ類もススキノキ科だそうです
中国や日本で見られるキキョウランDianella ensifoliaと同じように青い実がなりますが,キキョウランよりも実が大きいのが特徴だそうです
この実からは青い染料が採られ,種子はレイに,葉はロープに使われます
ハオRauvolfia sandwicensis(キョウチクトウ科)
ウキウキもハオも種小名が同じsandwicensisですが,これはハワイ諸島の旧名サンドウィッチ諸島から取られたものなのでしょう
(『サンドウィッチ諸島』は1778年ハワイ諸島に到達したクックが,後援者J・M・サンドイッチ伯にちなんで命名したもの)
根は薬用です
キョウチクトウ科の植物は有毒なアルカロイドを含むものが多いのですが,この種はインドジャボクRauvolfia serpentinaに近縁で,インドジャボクと同様に根にレセルピンを含みます
レセルピンは高血圧や統合失調症の治療に重宝されたアルカロイドです
ロウルPritchardia sp. (ヤシ科)
シュロのような扇状の葉を持つ小型のヤシ
ロウルとはハワイ語で『傘』という意味で伝統的に扇状の葉を傘として使っていたことから付けられた名前です
ハワイでロウルと呼ばれるヤシは28種(そのうち24種はハワイ固有種)あり,全てPritchardia 属だそうですが,この自然植物園に植栽されていたロウルの種名は分かリませんでした
ロウルPritchardia sp. (ヤシ科)
これは後日行った,ライオン植物園に植栽されていたロウル
これも種名は分からず,ビショップ・ミュージアム併設自然植物園に植栽されていたロウルと同種かどうかも分かりませんでした
ニウCocos nucifera(ヤシ科)
参考までに,ライオン植物園に植栽されていたココヤシ(ハワイ語で『ニウ』)
葉はロウルのような扇形ではなく,羽状なのが分かります
多くの人がヤシと言って最初に思い浮かぶのはこの木でしょう
ハワイでも普通に見られますが,自然植物ではなく,ポリネシア人が伝えた伝統植物ですね
成長が早く,非常に有用な植物でポリネシアの文化にも深く結びついています
2.海岸の自然植物( Kahokai カホカイ)
アーヴェオヴェオChenopodium oahuense(ヒユ科)
ハワイ固有種
葉は湯がいてホウレンソウのように食べることができます
材はサメを釣る釣り針を作るのに使われました
イリマSida fallax(アオイ科)
黄色い花が時間とともにオレンジ,淡赤色に変化します
高貴な花とされ,王族が付ける特別なレイに使われました
ハイビスカスがハワイの花になる前はイリマが国花でした
蕾は下剤に,根の皮は疲労回復と喘息の予防に用いられました
マオGossypium tomentosum(アオイ科)
伝統的には花はレイ,根は胃薬に使われました
ハワイアン・コットンと呼ばれるワタ属(Gossypium)の植物で,黄色い花が咲いた後に卵形体の蒴果ができて赤茶色の綿が採れますが,ハワイには糸を紡ぐ文化がなかったため,伝統的にはマオの綿も繊維として利用されることはありませんでした
綿花として栽培して利用しようとする計画もあったようですが,商業的に成功したという話は聞きません
ちなみに,糸を紡ぐ文化がないということは紡いだ糸を織った布もなかったということです
ハワイの植物の説明で『染料として利用』とあった場合,染めるのは布ではなく,カパと呼ばれる樹皮を叩き伸ばして作った不織布ですね
マオの葉からもカパを緑色に染める染料が採られました
ナウパカ カイScaevola coriacea(クサトベラ科)
トベラに似た葉を持つクサトベラ科の植物(『クサトベラ』科と言っても草本ではなく低木)
かつてはハワイ全土で見られたのですが,現在ではマウイ島とその周辺でしか見られない絶滅危惧種です(野生個体数は300以下とされている)
ポーヒナヒナVitex rotundifolia(シソ科)
和名はハマゴウ
東アジア〜東南アジア〜ポリネシア〜オーストラリアに分布し,日本でも本州・四国・九州・琉球の海岸や琵琶湖沿岸の砂浜に生育します
花や葉に芳香があり,レイや香料に使われました
アフアヴァCyperus javanicus(カヤツリグサ科)
この写真はたまたま刈り取られた後だったようですね
アフアヴァCyperus javanicus(カヤツリグサ科)
この写真はライオン植物園に植栽されていたものです
茎は撚ってイプ(ヒョウタン)などに巻き付けるロープとして利用しました
海岸近くの塩分を含む湿地に分布しますが,タロイモ水田の脇にもよく生えているそうです
3.ポリネシア人が伝えた植物(Mai na wa’a マイナヴァア)
ハラPandanus tectorius(タコノキ科)
英語でScrewpineと呼ばれるタコノキの仲間
パイナップルのような形の特徴的な実を付け,果実が水に流されることで分散します
実は食用,葉は編み細工,幹は建材になる有用植物です
ハラPandanus tectorius(タコノキ科)
果実は球形で多数の多角形の果実からなる集合果で,パイナップルのような形ですね
ハラPandanus tectorius(タコノキ科)
集合果を形成する果実の一つ
ノニMorinda citrifolia(アカネ科)
和名はヤエヤマアオキ
インドネシアのマルク諸島が原産らしいです
ノニはハワイ語で日本でも「ノニジュース」という名前の健康食品として売られていますね
樹皮は黄色,根は赤色の染料になります
ノニMorinda citrifolia(アカネ科)の果実
ノニMorinda citrifolia(アカネ科)の葉
マイアMusa × paradisiaca(バショウ科)
栽培バナナ(マレーヤマバショウ(Musa acuminata)とリュウキュウバショウ(Musa balbisiana)との間の交雑種の三倍体。)
写真の後ろにあるイネ科植物はサトウキビですね
どちらもハワイ人の生活には欠かせない栽培植物です
アヴァPiper methysticum(コショウ科)
乾燥させた根を粉末にしたものを水に溶いて飲むと酒に酔ったような酩酊感があります
メラネシアからポリネシアで広く愛飲される嗜好品で,トンガ語のカヴァの名前で有名ですね
オーレナCurcuma longa(ショウガ科)
インド原産のウコンもポリネシア人が伝統植物として伝えて,染料や薬用に使用されています
カロColocasia esculenta(サトイモ科)
いわゆるタロイモ,ポリネシア人の主食の一つですね
水耕と陸耕がありますが,前者が一般的で,後者は飢饉の時の救荒作物として重要です
カロColocasia esculenta(サトイモ科)各部の名称と利用方法の展示(ビショップ・ミュージアム内)
カロ(根塊)を焼いたものはアオ,地下茎はオハ,葉はルアウ,葉と根塊をカットした残り(種付用)はフリと呼ばれるなど,呼び名が細分化されています
カロは,イム(地中に埋めて蒸す調理法)の後に潰して糊状にしたポイにして食べるのが一般的でした
カロColocasia esculenta(サトイモ科)栽培法の展示(ビショップ・ミュージアム内)
農具は「掘り棒」(先を尖らせた木の棒)のみで,掘り棒で植え付けをするので、自然に点植え式になりました
ウヒDioscorea alata(ヤマノイモ科)
ダイジョ,ヤムイモ
日本のヤマイモ(ヤマノイモD. japonica)やナガイモD. polystachyaは同属の別種です
東南アジアで起こった根栽農耕文化圏で,芋は『Ubi』に似た名前で呼ばれます
これはオーストロネシア祖語(台湾の原住民語)を語源とするものなのでしょう
「栽培植物と農耕の起源」(中尾佐助著,1966年,岩波新書)の中では,この根栽農耕文化のことを「ウビ農耕文化」と呼び,
バナナ、ヤムイモ、タロイモ、サトウキビの4つを組み合わせたことと,
栽培法において『種子』を用いない、根分け・株分け・挿し木などの栄養体繁殖のみで行うことを特徴として挙げています
ハワイの伝統的な農業も,他のポリネシア農業と同様に,この「ウビ農耕文化」に属するものでした
ククイAleurites moluccanus(トウダイグサ科)
英語でCandle nut treeと呼ばれ,種子から採れる油が灯油として使われました
現在でもロミロミ(ハワイアンマッサージ)のオイルとして欠かせない素材です
殻付きの実はレイに,種子は油の他に便秘薬や調味料(イナモナ、炒った種子に塩を加えたもの)に,茎は薬用に,樹皮は赤色の染料に,花は口内炎の治療に,葉はレイの素材や薬用に,材はカヌーのブイに,根は黒や茶色の染料にと全てを余すところなく使われる有用植物です
ククイAleurites moluccanus(トウダイグサ科)の実
ククイAleurites moluccanus(トウダイグサ科)の葉
キーCordyline fruticosa(クサスギカズラ科)
和名はセンネンボク
ハラペペと同じクサスギカズラ科(かつてはリュウゼツラン科とされた)ですが,こちらはポリネシア人が伝えた伝統植物です
地下茎は食用,葉は肉や魚を包んで蒸し焼きにする時に使わました
また、キースカートと呼ばれるフラの衣装もこの葉を使ったものです
現在では観葉植物として知られ,様々な園芸品種が作られています
キーCordyline fruticosa(クサスギカズラ科)の葉
2019年10月5日に訪れたライオン植物園Lyon Arboretumの受付です(ここで入場料を払います)本や写真,植物の種子,雑貨等の土産物も売っています
建物正面に生け垣状に列植している葉の赤い植物は伝統植物であるキー(センネンボク)の園芸品種('Lilinoe'リリノエ?)ですね
オヒア・レフアMetrosideros polymorpha (フトモモ科)
ライオン植物園に植栽されていたハワイ固有種です
種小名の‘’polymorpha‘’ は『多型の』という意味で,棲息環境によって樹形が大きく異なることに因みます
湿原では30cmほどの低木ですが,森の奥では20m以上の高木になり,葉の形や枝振りも変わってきます
ハワイの伝統文化ではオヒアは樹木,レフアは花を指します
昔,オヒアという若者とレフアという娘がいて二人は愛し合っていました
日の女神ペレはオヒアに惚れて求愛するが拒まれ,激怒したペレはオヒアを醜い木に変えてしまいました
悲嘆するレフアを不憫に思ったペレの弟カモホアリイがレフアを赤い花に変え,オヒアの木に咲かせてやりました
そのためレフアの花を摘むと離ればなれになるのを悲しんで涙を流し雨が降るという言い伝えがあります
この言い伝えのためレフアの花は摘んではいけないとされているわけではないらしく,花や葉はレイによく使われます
低木のオヒア・レフア Metrosideros polymorphaの葉は小さく厚く,葉裏には毛が密生しています
高木のオヒア・レフア Metrosideros polymorpha
これもライオン植物園に植栽されていたハワイ固有種です
高級木材とされ,建材や木工品,カヌーやウクレレなどの楽器に用いられましたが,過去の乱伐のせいで数が減っていて,現在では倒木であっても採取は禁止されています
小さい複葉と特徴的な三日月型の葉をつけますが,小さい複葉が本来の葉で,三日月型の葉は複葉の葉身が退化して葉柄部が扁平になってできた偽葉です
2019年10月5日,マノアの滝へのトレイルでもいくつかの植物が見られました
ここは映画「ジュラシックワールド」のロケ地の一つで, ワイキキから手軽に行けるジャングルということで人気の観光スポットです
原生林的な解説をされていることもありますが,実際には外来種も多いですね
コーピコPsychotria mariniana (アカネ科)
ハワイ固有種で,白く小さな五弁の花をつけます
材は非常に硬いのですが,節が多くて大きな材が取り難いので,燃料として燃やされることも多かったようです
マオ(ハワイアン・コットン)の解説で,ハワイには糸を紡いだり織って布を作る文化がなく,樹皮を叩き伸ばしたカパと呼ばれる不織布が衣類に用いられたと書きました
コーピコの木はこのカパを作るときの叩き台としても使われたそうですね
ハープウCibotium glaucum (タカワラビ科)
ハワイ固有種の木性シダです
根茎にデンプン質を含むため救荒作物として利用されました
主食である水耕のカロ(タロイモ)も陸耕のカロも採れず,ウル(パンノキの実)も採れず,ウヒ(ヤムイモ),ウアラ(サツマイモ).ピアラ(タシロイモ)も育たない飢饉の際に,ハープウの根茎からデンプンを採りました
木化した根茎を切り出す作業は大変な重労働で,しかも最低でも3日間ほど根茎を蒸す行程も必要なため,本当に最後の手段だったようです
ブルージンジャーDichorisandra thyrsiflora (ツユクサ科)
ブラジル原産の外来種です
トレイルの近くに群生があり,美しい青紫色の花を多数付けているため非常に目を引きます
外観から誤認されて『ジンジャー』と呼ばれていますが,ショウガ科ではなくツユクサ科
モルッカネムParaserianthes falcataria (マメ科)
インドネシアのマルク(モルッカ)諸島原産の外来種で,年間で7m伸びることもあるという非常に成長が早い木(早生樹)です(早生樹 ―産業植林とその利用―.海青社 (2012/8))
100年以上前,伐採地や牧草地などの斜面の土壌流出を防ぐため,成長の早い本種を植林しました
現在ではハワイ全土に分布を拡げ,在来樹種の生育に悪影響を与えています
40m以上の大木になりますが,早く成長するため材が脆くて弱いため,前ぶれなく枝が折れて落ちてくることがあり,非常に危険です
トレイル上にたくさん落ちていたモルッカネムParaserianthes falcataria の豆果の鞘
バニヤンツリー(ベンガルボダイシュ)Ficus benghalensis(クワ科イチジク属)
インド原産の外来種で絞め殺し植物として有名なバニヤンツリーが,ハワイでも普通に自生しています
クロチクPhyllostachys nigra(イネ科)
中国原産の外来種です
元々,ハワイにはタケ類は自生していませんでしたが.ポリネシア人がオヘSchizostachyum glaucifoliumと呼ばれるタケを伝え,水筒,楽器,建材等に利用していました
現在では本種やホテイチクPhyllostachys aureaのような中国のタケ類が持ち込まれて自生しています