種分化と進化の実体7
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
種分化においては『交配後隔離』が重用視されがちで,
近縁種との交雑を生じない集団を「good species」と呼んだりするんですが,
近年の分子分析の発展によって,外見では雑種に見えなくても,
交雑は以前考えられていたものよりもずっと頻繁なことが分かってきました
Speciation . Jerry A. Coyne (著), H. Allen Orr (著). Sinauer Associates Inc (2004/5/28)
要するに,近縁種間で完全な生殖隔離が見られる種はほとんどないので,
現実の野外の生殖隔離において重要なのは,
『交配前隔離』の方かも知れません
マガモとオナガガモとカルガモや
イエズズメとスペインスズメ
ヒグマとホッキョクグマ,
あるいは前回紹介したアゲハチョウ属の場合も,
たとえ同処性の個体群であっても,
通常は異種間の交尾そのものがめったに起こりません
これには『交配前隔離』には幼児期のインプリンティング(すりこみ)
による同類判定の基準によって
繁殖行動が決定し,他の集団から「生殖隔離」されている場合
なども考えられます
実際,飼育条件下で正常なすりこみを受けなかった個体は
別種とも交尾してしまう例が知られています
15~16世紀のインカ族は質の良い毛皮を得るために,
幼い頃からアルパカに育てさせたビクーニャの雄とアルパカの雌で
雑種を作っていました
これはすりこみによって,
ビクーニャの同類判定の基準を変えてしまうことで,
自然状態では仲が悪く交尾しようとしない2種を交配させる技術です
(そもそもアンデスのラクダ科哺乳類(野生種2種と家畜種2種)は
近縁で互いに交配可能というのが前提ですが)
>アンデスではラクダ科の野生種であるグアナコ (Lama guanicoe)
>(図 3)やビクーニャ(Vicugna vicugna)(図 4)からリャマ,
>(Lama glama)(図 5) やアルパカ(Lama pacos)(図 6)が,
>家畜化され、 搾乳を伴わない利用がみられる。野生種や家畜種 の,
>間に生殖隔離がなく、高地で同所的に分布し自然および人為的に,
>交雑する能力がある。
(川本 芳.2009.高地における家畜化と家畜利用 ―アンデスとヒマラヤの遺伝学研究. ヒマラヤ学誌 No.10, 103-114
このような行動学的な隔離の一部は非遺伝的なものかもしれませんね
同一属内の種間では標準遺伝距離D=0.16程度という経験則があるのですが,
根井(1990)は著書の中で
ガラパゴスフィンチGeospiza属6種間の遺伝的距離が
0.004~0.065と小さく,
また,鳥類で一般的に種間の遺伝的な距離が小さい傾向が
あることなどから,
鳥類においては外見と歌声による行動学的隔離によって
進化が速められていて,
あまり遺伝的変化を起こすことなく種分化が起こっている
という説を紹介しています
(詳細は以下の著書のp.207-211あたりを読んで下さい)
「生物学的種概念」を提唱したマイヤーも
「生殖隔離の有無は野外の自然個体群で確かめないと意味がない」
と考えていました
なぜなら,『交配前隔離』は人工的な飼育によって
しばしば破壊されてしまうからです
つまり,交配実験では「交配後隔離」の強弱しか
分からないので(前回も書いたように),
「自然状態で接触する機会のない異処性の個体群においては
生殖隔離があるかどうかを確認する方法はない」ということです
さて,ここまでの点を踏まえて,ユッキーさんに質問です
以下の1~9の生物集団は同種なのでしょうか?
同種だとすればその根拠は?別種だとすればその根拠は?
1.『輪状種』を形成しているシロアシネズミの集団
2.北海道のエゾヒグマUrsus arctos yesoensisと
中国のウマグマU.a.pruinosusとヨーロッパヒグマU.a.arctosと
北米のヒグマ(ハイイログマU.a.horribilis)と
3.北米のヒグマ(ハイイログマU.a.horribilis)とホッキョクグマ
4.タイワンザルとニホンザル
5.アジアスイギュウBubalus bubalisの(River Type染色体数50)と
(Swamp Type染色体数48)
6.バンテンBos javanicusとアジア家畜牛Bos indicusと
ヨーロッパ家畜牛Bos taurus
7.ロバとウマ
8.ヨーロッパイノシシとアジアイノシシと
インドイノシシとニホンイノシシ
9.キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterと
オナジショウジョウバエD.psimulans
種分化と進化の実体6
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
[ユッキーさん]種を超えた変化があれば教えてください、
ホント、理解できないです、
もっと簡単にそれを説明できませんか?
もうすでにたくさんの例が紹介されているんですよ,
実例を挙げながら,なるべく簡単に説明しているつもりなんですが,
正確に伝えようとすると,どうしても話の内容は難しくなりますね
[ユッキーさん]Origins Archiveというページは日本語じゃないので、
読めないのですけど、
哺乳類は無理ですか、
残念ですけどそうゆうニュースがでたらお願いします、
ミケさんが挙げた実例の中で,
>ハツカネズミ(マウス、Musculus musculus)
>シロアシネズミ(deer mouse、Peromyscus maniculatus)
>ポケットマウス(Perognathus amplusとP. longimembris)
は哺乳類ですよ
Talk Origins Archiveの中では上記のシロアシネズミの他に、
Spalax ehrenbergi(メクラネズミの仲間)も
輪状種の例として挙げられています、
(蚊・ミバエ・ハチ・サンショウウオ・ムシクイなどの鳥・いくつかの植物)
[ユッキーさん]この二つは早い話、
ネズミでもない種の中間ってことですね、
この二つはどのネズミの種から生まれたのですか?
『ネズミでもない種の中間』という表現が意味不明です
そもそも日本語の『ネズミ』は種の名前ではなく,
齧歯目などの小型哺乳類の多くの種を含む総称ですから
まずは,ミケさんがリンクしたサイトを読んでみて下さい
>the deer mouse (Peromyces maniculatus), with over fifty subspecies in North America
北米のシロアシネズミには50以上の亜種があって,
それらが『輪状種』になっているんですよ
>In ring species, the species is distributed more or less in a line,
>such as around the base of a mountain range.
>Each population is able to breed with its neighboring population,
>but the populations at the two ends are not able to interbreed.
輪状種(ring species)では,隣合う個体群同士は繁殖可能ですが,
両端の個体群は繁殖ができなくなっています
>Ring species show the process of speciation in action.
つまり,『輪状種』は生殖隔離が形成される過程(種分化)を
示しているということです
ユッキーさんは「種の定義」として生殖隔離を重視するという
意味の発言されていましたよね
>>それでは,ユッキー氏の定義する『種』とは何でしょうか?
[ユッキーさん]繁殖可能で子孫を残せる同種。
「生殖隔離」だけを基準とすると,
シロアシネズミの集団は隣合う集団同士は「同種」ですが,
両端の集団同士は『別種』となってしまいますよ
また,「生殖隔離」と一口に言ってもその中身は様々です
比較的分かりやすいのは『交配後隔離』ですね
これには遺伝的な不和合性のような生理的な障壁による隔離
などが含まれます
例えば,ヤギCapra aegagrus hircusとヒツジOvis ariesのように,
交配しても雑種ができない場合もあれば,
雑種はできても,子供に繁殖能力がない(不妊性)場合もあります
ロバのオスとウマのメスを交配させると,
不妊性の一代雑種ラバEquus asinus X Equus caballusが生まれ,
逆に,ロバのメスとウマのオスを交配させると,
ケッテイEquus caballus X Equus asinus(これも不妊性)が生まれます
ウマやロバとシマウマ類との交配でも
一代雑種(ゼブロース,ゼブラスなど)しか生まれません
野生牛バンテンBos javanicusと家畜牛の一代雑種は
オスの生殖能力は弱いものの,メスには正常な繁殖能力があり,
東南アジアの家畜牛に
バンテンが遺伝的影響を与えていることも明らかになっています
IJ Nijman et al.(2003)Hybridization of banteng (Bos javanicus) and zebu (Bos indicus) revealed by mitochondrial DNA, satellite DNA, AFLP and microsatellites. Heredity:90, 10–16
また,家畜牛(Bos taurusやBos indicus)(2n = 60)とは
属が異なるとされるアメリカバイソンBison bulls(2n = 60)
との雑種も作られていますし,
HYBRID BOVINES. AMERICA MAKES SOME NEW ANIMALS - By Frank Thone (Miami Daily News Record, 7th March, 1929)
染色体数の異なるガウルBos frontalis(2n = 58)と
コブウシ(インド家畜牛)Bos indicus(2n = 60)の雑種も作られています
(Application of Frozen Sperm of Mithun in Superovulation of Zebu and Parentage Identification of Crossbred F_1(Mithun×Brahman)
これらの雑種も雄は不妊のようです
染色体数が異なると言えば,
アジアスイギュウBubalus bubalisの
river type(2n = 50,強くカールした角または真直ぐに垂れた角を持つ)と
swamp type(2n = 48,大きな円弧を描く角を持つ)の間の雑種もいますし,
(Bongso TA, Hilmi M, Basrur PK.(1983)Testicular cells in hybrid water buffaloes (Bubalus bubalis).Res Vet Sci. :35(3):253-8.)
(天野 卓(1982).水牛の血液型ならびに東亜における水牛の系統成立に関する一考察.ABRI,10:19-27
家畜ウマEquus caballus(2n = 64)と
モウコノウマE. przewalskii(2n =66)の雑種もいて,
(Chandley AC, Short RV, Allen WR. (1975) Cytogenetic studies of three equine hybrids. J Reprod Fertil Suppl. (23):356-70.)
これらの雑種には繁殖能力があるようですね
また,アゲハチョウの仲間では,ハンドペアリング(人工交尾)
による種間交雑の受精率,孵化率,最終到達期,雑種個体の
生殖能力などから種間の近縁度を明らかにした研究があります
(阿江 茂, 1988.アゲハチョウ属の交雑を中心とした種とその分化の研究. 蝶類学の最近の進歩 (Spec.Bull.Lep.Soc.Jap., (6) : 475-498)
つまり,別種であっても
「近縁種間では(様々な段階での)交雑の成功率が高くなり,
類縁関係が遠くなるほど,交雑の成功率が低くなる」
というように,
『交配後隔離』の程度の違いは連続的であるということです
このように『交配後隔離』に限ってみても,
完全な隔離(雑種が生じない)~
不妊性の一代雑種しか生じない
or
受精率・孵化率が低い
or
雑種の死亡率が高い~
雑種の一方の性だけにしか繁殖能力がないなど,
いくつも段階があることが分かりますね
このような隔離機構の進化には,
「遺伝的浮動」と「自然選択」の両方が関係していると
考えられていますが,
どちらがどの程度の割合で関係してるかという点については,
議論があるようです
接合後隔離に関わる遺伝子は,
集団内では,中立か,あるいはやや有害であると思われ,
遺伝的浮動によって集団中に固定されていくと考えられます
しかし、近年、sexualconflictによる自然選択の効果で
種分化に関わる遺伝子が急速に進化することが分かってきました
(澤村・前原・村田.2011.種分化の分子生物学-最近の研究から見えてきたこと.遺伝65(3), 2-4)
また,バンテンと家畜牛の雑種などに見られるように,
哺乳類の雑種の場合は雄が不妊になることが多い傾向があります
これはホールデンの法則と呼ばれる経験則で
「系統の異なる動物の雑種第1代で一方の性にのみ現れない,
少ない,あるいは不妊といった異常が見られる場合,
そちらの性が異型接合(哺乳類の多くはXYの性染色体をもつ雄,
鳥類では雌(ZW型))の方だ」というものです
異種ゲノムの不適合性が引き起す雑種の不妊・発育不全現象の遺伝的制御機構.(文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究』)松田班HP
集団遺伝学的な観点から,雑種致死や不妊が1遺伝子によって起こる
とは考えにくいため, 2遺伝子間の不和合によって引き起こされる
という「BDMモデル」が提唱されています
ホールデンの法則の成立要因もBDMモデルを前提に推定されていますね
(澤村京一.1994.ホールデンの法則をめぐる論争:「種分化の遺伝子」を追う、科学(岩波書店) 64: 545-549)
種分化と進化の実体5
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
[ユッキーさん]別種だけど人と交わり子孫を残すことが可能とゆう話は
理解し難いので、
もしそうならその過程をザッパで結構ですので、
お聞かせください、
化石種において「別種でも子孫を残す」ことができる可能性があります
なぜなら,『進化の実体2』で書いたように,
化石種とは『形態的種』であり,生殖隔離を基準にした,
『生物学的種』とは別の概念だからです
>「化石種」はすべて「形態的種」によって分類されているので,
>「『化石種』に見られる進化」とは「形態的種」の進化です
>
>実際の生物集団としては,第1と第2の種の定義が
>ほぼ一致することも少なくないのですが,
>例外も多いので,概念としては別物と考えた方が良いでしょう
ホモ・エレクトゥスHomo erectus集団から,
ネアンデルタール人Homo neanderthalensis集団が分岐した時も,
ヒトHomo sapiens集団が分岐した時も,
これらの形態種間で生殖隔離が生じていたかどうかは不明としか言えません
しかし,形態的種としてのヒトHomo sapiensと,
ネアンデルタール人Homo neanderthalensisは
同時代に共存していたにもかかわらず,
それぞれの形態的特徴を保っていました
自然状態では両種の交雑はまれにしか起こらなかったと推測されます
現生種でも
マガモAnas platyrhynchosとオナガガモA. acutaとカルガモA. poecilorhyncha,
イエズズメPasser domesticusとスペインスズメP. hispaniolensis,
ヒグマurasus arctusとホッキョクグマU.maritimusは交雑可能ですね
(時国公政. 1989. マガモとオナガガモの雑種個体の観察. Strix 8: 286-287.)
>マガモとカルガモの雑種 嘴をはじめ、上面の体色や明瞭な過眼線は
>カルガモ的だが、胸の赤みや体下面の灰褐色、眼後方の緑色等は
>マガモを示唆している。
(カモの変り種2007-02-14 18:31:25 | 鳥キチ日記)
>Grizzly-polar bear hybrid
(From Wikipedia, the free encyclopedia)
実際には,これらの『交雑可能な別種』(形態的種)は,
遺伝的な不和合性のような生理的な障壁とは別の機構で「生殖隔離」され,
同処性の個体群でも,自然状態では交雑はまれにしか起こりません
このように「形態的種」が保たれているということは,
遺伝子の交流に制限がある可能性を示しているということです
しかし,形態的種の違いは「遺伝子の交流の制限」を示しているものの
(逆に形態的には区別できなくても遺伝的に隔離されている場合もあります
(=同胞種))
その違いが生殖隔離によるものか地理的な隔離によるものかは区別できません
例えば,ニホンザルとタイワンザルの場合も
たまたま人為的な移入があったせいで,
生殖隔離がなかったことが明らかになっただけで,
もし,地理的に隔離されたままだったら,
生殖隔離があろうがなかろうが,両集団の遺伝子交流は制限されていたのですから
つまり,生殖隔離を基準とした『生物学的種』(第1の定義の種)は
異処性の個体群間では判断できないということです
種分化と進化の実体4
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
[ユッキーさん]それは進化論者が解釈しているだけでしょ、
生物が生活していれば種が変化して行く事など当たり前
のように分かります、
進化論がその変化でも進化とゆうなら
それでいいでしょう、
でもそこまででしょう、
種を超える大きな変化が見られるのでしょうか?
「進化論者が解釈しているだけ」もなにも,
進化論者以外の誰が進化を定義できるのですか?
ユッキーさんが思い描く『進化』は現実に起こり得ませんが,
そのことと進化論とはなんの関係もないでしょう
もちろん,進化の結果として『種を超える大きな変化』も見られます
ミケさんが3回も同じこと(『生物学的種概念における種A→種Bという観察事例』)を書き込んだのを忘れたのですか?
「形態的種」で良ければ,
イヌの品種間の形態の違いは,属レベルに匹敵するかもしれません
>イヌの品種
>
> どんなイヌを見ても、みなイヌだとはわかるのだが、犬種ごと
>の違いは大きい。中でも小型犬から大型犬まで、大きさがすごく
>違う。小型犬の代表のチワワの体重は、1.5キロから3キロぐらい
>だそうだが、超大型犬のロットワイラーは50キロ、セントバーナード
>やイングリッシュ・マスチフにいたっては100キロまでにもなるという。
長谷川 眞理子.イヌの起源(2020.02.14) 進化生物学者がイヌと暮らして学んだこと.せかいしそう.世界思想社のwebマガジン
>犬種210種類まとめ!
(pepy ペットライフを楽しくする情報メディアHP)
>Ⅱ-7 イヌ —— 日本とアジア犬種の系統
[ユッキーさん]ところで日本人って昔に比べて体型が変わりましたよね、
肥満児、長身が多くなったのも進化と言えるのでしょか?
『昔に比べて』というのが,
『第2次大戦後の体位の向上のこと』をさしているのなら,
これは,主として食生活や生活習慣の変化などによるものであり,
集団の『遺伝的な変化』ではないので,進化現象とは考えられません
>戦前における国民の体位、特に
>青少年の体位は、保険衛生の
>進展或いは社会環境の改善に
>伴って逐年向上し、大正末期
>から昭和初期にかけての上昇
>がめだち昭和2~14年ごろ
>には身長、体重などすべて
>戦前の最高水準を示した。
>しかし昭和15年頃からは
>食糧事情の窮迫と生活環境の悪化をうけて国民の体位は急速に低下し、
>終戦直後に実施した昭和22年に実施した国民栄養調査による身体計測
>の結果では驚くべき体位の減退が明らかにされた。さらに昭和24年頃
>からは青少年の体位の回復が目覚ましく昭和27,28年頃にはおゝむね
>戦前の水準まで達し、その後も栄養摂取水準の上昇に伴って体位も順調
>に伸びつゞけてきた。
国民栄養の現状.昭和36年度国民栄養調査成績.厚生省公衆衛生局栄養課
ヒトの世代時間から考えて,わずか数十年で集団の遺伝子頻度が
大きく変わるとは考えられません
また,肥満者,長身者の適応度を高める(より多くの子孫を残す)
ような大きな淘汰圧も認められません
世代時間の短いコナガが殺虫剤の散布という強い淘汰圧によって
耐性を獲得したのとはわけが違います
(ちなみに,コナガの世代時間は気温によって変わり,
北海道で年5世代,関東地方で年10世代,南九州で年12世代,
インドネシアで年19世代繰り返すと推定されています)
もちろん,ヒトの体位には遺伝的な影響もあり,
各民族集団の平均的な体位には遺伝的要因も関わっています
そのような民族集団ごとの遺伝的な特性をもたらしたものは
「進化」だといって良いでしょう
しかし同時に,体位は成長期までの栄養状態と密接な関係があります
数十~百年単位の急激な体位の向上や低下は,
世界各地で起こっていますが,
これらは栄養状態に依存するものであり,
進化とは分けて考えるべきでしょうね
北朝鮮と韓国では成人男子の平均身長で7cmも違いますが,
これも栄養状態の違いによるものでしょう
(成長期に食糧難を経験した年齢層ほど差が大きいという
報道もありましたね)
>2000年以降、韓国に入国した20~60歳の脱北者1200人を対象にした調査の
>「調査対象者の体格をみると、男性167センチ(韓国人の平均は174センチ)、
>女性156センチ(同160.5センチ)と韓国人平均に比べ、小さいことが明らかに
>なった。」(毎日新聞2011.1.20)(図録2190参照)やはり長期間にわたる
>南北の摂取カロリーの違いの影響は大きい(図録0200参照)。
>慢性的な栄養失調が、子どもたちの発育に大きな影響を及ぼしていることが
>分かった。 韓国と北朝鮮の国力に差のなかった時代に成長期を過ごした
>40代では、南北住民の体格はほとんど同じだが、1990年代中盤の深刻な
>食糧難を経験した20歳以下の世代では、韓国との間に大きな差が出た。
【北朝鮮特集】10代男子の平均身長150センチ - NNA ASIA・韓国・
ヨーロッパ人も19世紀前半までは170cm以下(成人男性)でしたが,
現代では175cm以上に増加しています
これらの現象も『進化』(=『集団の遺伝的な変化』)というよりは,
『栄養状態の改善による変化』だと解釈されていますね
>1825年の成人男性の平均身長
>フランス 164.5cm
>イギリス 168cm
>スウェーデン 167cm
>デンマーク 165cm
(Robert W. Fogel 1989. Second Thoughts on the European Escape from Hunger: Famines, Price Elasticities, Entitlements, Chronic Malnutrition, and Mortality Rates. NBER Working Paper 1.)より
現代の成人男性の平均身長
>フランス 176.4cm
>イギリス 178.1cm
>スウェーデン 179.6cm
>デンマーク 181.5cm
種分化と進化の実体3
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
[ユッキーさん]去年、CSで700万年前に存在していたと思われる
化石が見つかったのを見ました。
この発見で従来の人類発祥地、年代が変わったと
言ってました。
この化石を元に復元して毛むくじゃらの姿を再現
していました。
こうゆうのを見ると私たちは進化して今があるのだなぁ
とも思えますがやっぱり別
それはヒューマイと名づけてましたが人間は人間、
ヒューマイはヒューマイであり別種でありヒューマイ
から私たちになったとは考えてません。
面倒臭いので誰も突っ込んていませんが,
「700万年前の地層から見つかった最古のヒト科化石」は
「ヒューマイ」ではなく,『トゥーマイ』です
ユッキーさんが見た番組は
おそらく,ナショナルジオグラフィックチャンネルの
『最古の猿人:トゥーマイ』か何かだろうと推測しますが,
番組を見た後で少しでも調べた経験があれば,
こんな間違いはしないでしょ?
ヤギとヒツジのキメラ実験を
種形成の例として持ち出してみたりしていることから考えても,
ユッキーさんの知識の大半は,テレビや創造論本からもので,
進化や生物学についてまともに勉強したことはありませんね
ユッキーさんの態度についてはまだまだ言いたいことはありますが,
きりがないので本題に入ります
前回『進化の単位となる集団』は
『生物学的種』でも『形態的種』でもない,
と書きました
現代の進化論では,進化の単位は「種」ではなく,
「実質的遺伝子交流集団」だというのが常識だからです
>「種」は進化しない
>
>個体の変化の結果として、ある集団と別の集団の個体の形態が、類似し
>たり異なったりしてくる。さらに、ある集団の個体と別の集団の個体で
>は、子どもを残せる可能性が残っているかもしれないし、すでに子どもを
>残せないほど違っているかもしれない。いずれにしても、実際に進化した
>り、進化に関わっているのは、遺伝子、個体、繁殖集団あるいは実質的遺
>伝子交流集団などであり、その結果として、生物学的種概念による「種」
>(潜在的に繁殖可能な集団)や形態の類似性で分類した「種」が
>生じる。つまり、種自体が変化し、進化しているわけではないのだ。
(河田(1990)『はじめての進化論』講談社)
「実質的遺伝子交流集団」のことは「繁殖集団」「個体群」「デーム」等,
様々な呼び方をしますが,
要するに,「実際に相互交配し,遺伝子を交流している個体の集まり」
ということです
進化とは「集団内の遺伝子頻度の変化」です
突然変異のうち,あるものは遺伝的浮動によって集団内に拡散し,
あるものは自然淘汰によって消失し,
あるものは自然淘汰によって定着します
この「進化」という現象の単位となる「集団」は,
実質的に遺伝子を交流している集団以外はありえません
例えば,タイワンザルとニホンザルが「潜在的に」交配可能だとしても,
地理的な隔離が完全であれば,
タイワンザル集団に生じた変異がニホンザル集団に拡がることはないからです
同様に,北海道のエゾヒグマUrsus arctos yesoensis集団に生じた変異が,
中国のウマグマU.a.pruinosus,ヨーロッパヒグマU.a.arctos,
北アメリカのハイイログマU.a.horribilis集団に拡がることはないので,
「ヒグマUrsus arctosという種」(潜在的に交配可能な集団)の進化
という考え自体がナンセンスだということが分かるでしょう
(意味があるとすれば,次の氷河期で北海道が
ユーラシア大陸や北米大陸と地続きになった場合です)
また,繁殖集団をもっと細かく見ると,
ニホンザルの「群れ」は一つの「繁殖集団」であり,
進化は群れの遺伝子頻度の変化という形でも観察できます
もちろん,ニホンザルの群れは
近隣の群れから独立しているわけではありません
群れを離れる若いオスを通じて,群れ同士は遺伝的に交流しています
「霊長類の集団遺伝学:ニホンザル研究の現状と展望」 川本 芳 (集団遺伝分野・進化遺伝分科)
このように,高い頻度で遺伝子を交流している小集団同士が,
部分的な遺伝的交流によって大集団を形成している場合,
小集団をサブ個体群,いくつものサブ個体群をまとめた大集団をメタ個体群と呼びます
例えば,遡河性のサケ科魚類の多くは生まれた川を遡上するため,
各支流ごとでサブ個体群(局所個体群)を形成し,
水系全体でメタ個体群を形成しています (北海道大学大学院 環境科学院 生物科学専攻 小泉研究室HPより)
個体群の構造と遺伝子頻度の変化を記載し,理論化しているのが集団遺伝学です
ユッキーさんが「見せてくれ」と言っている
「現在,起こっている進化」の実体を研究する学問です
コナガ集団が殺虫剤の耐性を獲得する過程も進化ですし,
気候の変動によるエサの変化に合わせて,
ダーウィンフィンチ集団の嘴の形態が変わっていくのも進化です
各個体群内の遺伝子頻度が変化し,
その結果として生殖隔離が生じる(種分化)のも進化です,
ユッキーさんが,本当に進化を納得したいのなら「集団遺伝学」を
勉強する必要があるんですよ
種分化と進化の実体2
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
>>それでは,ユッキーさんの定義する『種』とは何でしょうか?
[ユッキーさん]繁殖可能で子孫を残せる同種。
その場合のコナガは繁殖できるのでしょ、
まず,定義としては日本語がおかしいですよ
種の定義なのに,文末が「同『種』」になっていますからね
(ユッキーさんは「種」以外の「実体をもった生物集団」を示す語を
知らないのかもしれません)
まあ,言いたいことはなんとなく分かります
要するに,生殖隔離を「種」を分ける基準にしたいということでしょう
生殖隔離を基準にした「種」の定義はかなり一般的なものです
マイヤーが1942年に提唱した『生物学的種概念』もその一つです
>種は実際にあるいは潜在的に相互交配する自然集団のグループであり、
>他の同様の集団から生殖的に隔離されている。(Mayr 1942[1999]:120)
網谷 祐一(2002)E・ マイヤーの生物学的種概念.科学基礎論研究:29(2).23-28.
この定義を第1の定義としましょう
定義の中に「相互交配」という語があることからも分かるように,
この定義は有性生殖する生物にしか当てはまりません
(以下,特にことわりのない限り,私も有性生殖する生物について話します)
また,「『潜在的に』相互交配する」という表現から,
実際に相互交配していなくても,
交配可能であれば『同種』とみなすことが分かります
例えば,タイワンザル集団はニホンザル集団とは地理的に隔離されており,
『実際に』遺伝的な交流はありませんでした
しかし,人為的な移入後は各地で自然交雑するようになり,
しかも、雑種のオナガザルにも妊性があるので,
この定義では「同種」とみなされます
特定外来生物の解説:タイワンザルとニホンザルが交雑することにより生じた生物 [外来生物法]
ミケさんの挙げた『種分化』の事例もこの『生物学的種』における種分化です
トンデモネタに対する突っ込み用情報ソース備忘録 - 1138967290 - したらば掲示板
第2の定義として「形態的種概念」を挙げましょう
第2と言っても歴史的には第1番目よりも古いものです
もともと種の類別は形態的な観察から始まっており,
「形態の似ている生物集団」(=『形態的種』)に対して
固有の名前が与えられていました
現在でも形態的特徴を基準に,多くの新種が記載されています
「形態的種」は,
「我々の周囲にいる生物のほとんどに,
『(形態)変異の不連続性』がみられる」
という 「経験的事実」とも合致しており,
生物集団を直感的に理解する方法として,今でも有効です
(ユッキーさんの「コナガはコナガでしょ」
の根拠となっているのも『変異の不連続性』です)
また,「化石種」はすべて「形態的種」によって分類されているので,
「『化石種』に見られる進化」とは「形態的種」の進化です
例えば,化石で見られるフズリナの進化は「形態的種」の進化です
千坂 武志(1986)日本産、紡錘虫の進化.千葉敬愛短期大学紀要敬愛大学 8.21-24.
タイワンザルとニホンザルは交雑するので,第1の定義では同種ですが,
『形態的種』としては分けることができますね
つまり,タイワンザルとニホンザルという「形態的種」が自然交雑し,
「オナガザル」という新たな「形態的種」の集団が成立したと言えるでしょう
実際の生物集団としては,第1と第2の種の定義が,
ほぼ一致することも少なくないのですが,
例外も多いので,概念としては別物と考えた方が良いでしょう
例えば,Artemia属(いわゆる『ブラインシュリンプ』『シーモンキー』)の場合です
初期の分類学者は形態的特徴を基準に多くの種名を記載しました
その後,形態的種の基準となった形質の多くが無効であることが分かり,
おびただしい数の種名は(同物異名として)は放棄され,
ブラインシュリンプはすべてArtemia salina Linnaeus 1758と
呼ばれるようになりました
しかし,さらにその後,Artemia属の集団は,
(形態的には区別できないが)
生殖的に隔離された集団に分けられることが分かり,
今では,生殖的に隔離された個体群や個体群のクラスタに対して
異なる名前が与えられるようになっています
>4.1.2.3. Taxonomy
>The genus Artemia is a complex of sibling species and superspecies,
>defined by the criterion of reproductive isolation.
4.1. Introduction, biology and ecology of Artemia
このような形態的には区別できない「生物学的種」のことを
『同胞種(隠蔽種)』といいます
他にも,キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterと
オナジショウジョウバエD.psimulansも同胞種の例として有名です
同胞種の存在は「生物学的種」と「形態種」は一致しないことを示しています
[ユッキーさん]進化の手前、進歩と言われれば判るのですが・・・・・
ユッキーさんは
「親から親とは違った別種の子が生まれる『ことだけ』が進化だ」
と思いこんでいます
しかし,多くの人が指摘しているように,この認識は誤りです
もちろん,「生物学的種」や「形態的種」の分化は重要な進化現象です
進化の結果として,
1,生物集団の間に生殖隔離が生じる時「生物学的種」は形成され,
2.生物集団の形態が変化することによって「形態的種」は形成される
からです
(「生殖隔離」と「形態の変化」は必ずしも同時に起こるわけではないので,
第1と第2の定義の種は一致しないことがあります)
しかし,『実体としての進化の単位となる集団』は,
「生物学的種」でも「形態的種」でもありません
種分化と進化の実体1
(以下の記事は 進化論と創造論についての第1掲示板での[ユッキーさん]とのやりとりを加筆,修正したものです)
>>生物の突然変異は偶然ですが,遺伝によって子孫に伝わり,
>>集団中に拡がります。
[ユッキーさん]これを現代、確認できる事例をお願いします。
キャベツなどの葉を食害するコナガという害虫がいます
有機リン系、カーバメート系,合成ピレスロイド系、ネライストキシン系剤、キチン合成阻害剤, BT剤の農薬(殺虫剤)は,開発された当初は有効でしたが,1970年代以降,各地で抵抗性を持った個体が出現し,同系統の農薬を連用した地域では抵抗性が強くなることが観察されています
足立 年一・藤富 正昭 (1995)コナガ防除の現状と問題点、植物防疫:(49)5.173-177.
同様の抵抗性の発達は多くの害虫で確認されています
これらは,突然変異によって生じた「薬剤抵抗性」という遺伝形質が
農薬散布という選択圧によって集団中に拡がっていく現象です
選択圧のかからない中立的な変異が集団中に拡がった例としては,
ヘモグロビンの偽遺伝子の変異などがあります
分子進化の中立説 ~木村資生と中立説.遺伝学電子博物館.国立遺伝学研究所
[ユッキーさん]コナガは強くなって事ですね、でもコナガはコナガでしょ。
『薬剤抵抗性の獲得』が,
「突然変異によって生まれた形質が集団中に拡がったことを確認できる事例である」
という点は同意いただけますか?
我々はこの現象を進化であると考えます
ユッキーさんは「コナガという『種』が変化していないので進化ではない」と考えているようです
それでは,ユッキーさんの定義する『種』とは何でしょうか?
[ユッキーさん]読みましたよ、種とは?ですかぁ
私が知ってるのは一般的な定義ほどなので
別に言わなくてもよいでしょ。
『種の定義』は一般的なものに限定しても4つ以上は存在します
もちろん,一般的に認められている定義はどれも間違いではありません
しかし,私自身が「種」という語を使う場合は,
「今,使っている『種』は何番目の定義の『種』であるか?」を
意識しています
一つの議論の中で異なる定義の「種」を使用すると混乱が生じるからです
しかし,ユッキーさんの中での「『種』とは何か?」は
本人が思っているほど明確ではありません
>> 進化の証明は種から別種への過程を説明できなければ
>>証明にはなりません。という批判は無意味です。
[ユッキーさん]チョット判りませんね。
進化の証拠は種から別種へ変異した可能性を
言ってるのでしょ。